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現代アルザスワインの頂点を極めるジャン・ミッシェル・ダイス。アルザスに初めて「テロワール」の概念を持ち込んで大論争を巻き起こし、遂にはAOC法の改正(ラベルに品種名を表記しなくてもよくなったこと等々)を成し遂げた、信念の男。現在も彼が昔から提唱する、畑の個性に基づく「プルミエクリュ」を実現させるべく運動を続けています。「ぶどうの樹は、自ら養分を求めて根を土中に伸ばします。この土中深くにあるものがその土地のテロワールです。ここは気候の影響もほとんど受けません。根が地表に留まると気候の影響をモロに受け、土地の個性は失われてしまいます。僕のワインは、例えば酷暑だった2003年も、濃さは例年と変わりませんでした。ビオディナミも、このテロワールを引き出すための手段に過ぎません。」「また今日、アルザスのほとんどの畑で同じクローンばかりが植えられるようになりました。その結果、どのワインを飲んでもクローンの個性の味しかしなくなりました。アルザスの土壌は、太古の地殻変動に由来する極めて複雑で多様なものです。個々の土地の強烈な個性をそのままワインに表現することが、僕の人生です。」
ぶどう樹を畑に植えて放っておくと、樹はどんどん大きくなり、枝もどんどん出て、葉をどんどんつける(光合成を求めて上に上に成長していく)だけで、ぶどうの実はつかない(つけたとしてもごく小さいうちに落ちてしまう)。したがってぶどうを実らせるには人間による介在が必要となる。ダイスのぶどう栽培における基本思想は、ぶどう樹に対して過酷な環境を与えることにある。例えば密植もその思想に基づく(密植本数:スタンダード7000本/ha、プルミエ・クリュ8500本/ha、グラン・クリュ12000~13000本/ha)。この思想の一義的な目的は、根を深く伸ばすことにある。また同じ理由によって、より痩せている畑に植えるべきである。多くの畑で混植していることからも分かるように、品種の特徴を表現することは目的としていない。アルザスの土壌は太古の地殻変動に由来する極めて複雑で多様なものであり、この土地の個性、テロワールをワインに表現することを目的としている。ダイスの混植とは、文字通り、1本のリースリング種の樹の隣にピノ・グリの樹が、その隣にミュスカの樹が、という混植である。通常、品種によって成熟のスピードやしたがって収穫の時期も異なるが、ダイスの混植ではすべての品種が同じスピードで成熟し、完熟を迎え、同時期に収穫する。このことは、品種の違いよりも土地ごとの特性の方が重要であることのひとつの証左といえるのではないか。1975年に父ジャン・ミッシェル・ダイスがドメーヌを継承した時点で、所有面積は約12haだった(ちなみにアルザスの全栽培家の平均所有面積は約10ha)。その後今日に至るまでに26haに拡大した(約半分が購入、残りがフェルマージュ)のだが、生産するワインの本数は、昔も今も約120 000本から変わっていない。「おやじは35年以上に渡って、ワインの複雑さ、味わいの深さ、余韻の長さを高める旅をしてきた」。新たに畑を入手した際などに植える株は、セレクション・マサルによって増やしているが、苗木屋に渡す際もいわゆる混植状態のまま渡す。苗木屋から納品される際も、「各品種ごちゃまぜ状態なので、もうこの段階から、品種が必ずしも正確には分からないのです(笑)」。アルザスの、1日当たり平均雇用労働者数は、約4名である(当然、収穫の4~7週間中に一気に増えるが、「1日あたり」にならした場合)。ダイスは19名で、うち12名が年間を通じての常勤(全員畑栽培に従事)である。 畑ごとの成熟スピードの差は、土壌の保水性で決まる。保水力が高い土壌は、水によって土壌の温度が低温に保たれるので、熟成は遅い。また、湿度も高いので、ボトリティスも発生しやすい。エンゲルガルテンやショフウェグなど、水捌けがよいほど辛口になり、ビュルグやシュネンブルグなど、谷底形状の畑は湿気もこもりやすく、ボトリティスがつく。
ダイスの全生産量の平均収量は33hl/ha(3300リットル)である。全アルザス平均は78.80hl/haであり、例えばブルゴーニュのグラン・クリュは45hl/haである。 ヴァン・ダルザス、セパージュワインなどのスタンダード40~45hl/ha(ブドウの樹1本当たりの収量640ml)プルミエ・クリュ25~30hl/ha(ブドウの樹1本当たりの収量294ml~350ml) 。ただし赤のビュルランベルグは15hl/haです。グラン・クリュ15~20hl/ha(ブドウの樹1本当たりの収量125ml~166ml) (ブドウの樹1本当たりの収量は密植本数に基づく)ちなみにグラン・クリュにおいてはぶどう樹1本あたり、グラス1~1.5杯分しか取れない。=シャトー・ディケムと同じ収量。ブルゴーニュで最も手間をかけているルロワのグラン・クリュワインでさえ20hl。2003年の猛暑のシャンベルタンで、それでも9hl/ha(値段10)なので、ダイスのコストパフォーマンスはかなり高いといえるのではないか。一般的に1回のプレスにかかる時間は約4時間である。ダイスは12~16時間かける。プレスが終わった時点で、ぶどうの果皮がまったく破れていない状態(ぶどうの実が汗をかくような感じで、果汁がじんわりと染み出してくる)を、プレスの極意としている。果皮に付着している天然酵母の影響、もちろんSO2も使用するので、プレスに時間がかかっても酸化はしない。その年のぶどうの状態に応じて、5機のプレス機を使い分けている(空気圧式2機、ヴァスラン(機械式)1機、木製垂直式大小2機)。SO2の平均使用量は約50ppm/lで、全アルザスワインの約3分の1である。「醸造中の酸化を防ぐことと、ワインの長期熟成のために、最低限のSO2は不可欠である」。マロラクティック発酵は、年によりワインにより、成行きに任せている(従来の説明書に書いていた、ピノ系品種はマロ発酵するというのは今はあてはまらないそうです)。 白は原則として除梗しない。ぶどうの実は茎から離れる時(その品種の)香り成分を出すが、それを避けるため。赤は80%程度除梗する。除梗しないと、茎に由来する青臭さなどがワインについてしまうため。
重視するのは、味わいの複雑さと、なによりも「余韻の長さ」である。余韻の長さは、畑仕事の質が正確に正比例し、醸造技術等によるごまかしは絶対にきかないし、長期熟成への絶対条件である。「グランヴァンとは、余韻が長いワインだと思います」。アルザスの他の生産者がしばしば最重要視する点で、ダイスがまったく重要ではないと考えているのは、ワインの香りである。「温度やグラス、気分等によっても激変するし、香りほど非本質的なものはありません」。
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現代アルザスワインの頂点を極めるジャン・ミッシェル・ダイス。
アルザスに初めて「テロワール」の概念を持ち込んで大論争を巻き起こし、遂にはAOC法の改正(ラベルに品種名を表記しなくてもよくなったこと等々)を成し遂げた、信念の男。現在も彼が昔から提唱する、畑の個性に基づく「プルミエクリュ」を実現させるべく運動を続けています。
「ぶどうの樹は、自ら養分を求めて根を土中に伸ばします。この土中深くにあるものがその土地のテロワールです。ここは気候の影響もほとんど受けません。根が地表に留まると気候の影響をモロに受け、土地の個性は失われてしまいます。僕のワインは、例えば酷暑だった2003年も、濃さは例年と変わりませんでした。ビオディナミも、このテロワールを引き出すための手段に過ぎません。」
「また今日、アルザスのほとんどの畑で同じクローンばかりが植えられるようになりました。その結果、どのワインを飲んでもクローンの個性の味しかしなくなりました。アルザスの土壌は、太古の地殻変動に由来する極めて複雑で多様なものです。個々の土地の強烈な個性をそのままワインに表現することが、僕の人生です。」
マルセル・ダイスの栽培について
ぶどう樹を畑に植えて放っておくと、樹はどんどん大きくなり、枝もどんどん出て、葉をどんどんつける(光合成を求めて上に上に成長していく)だけで、ぶどうの実はつかない(つけたとしてもごく小さいうちに落ちてしまう)。したがってぶどうを実らせるには人間による介在が必要となる。ダイスのぶどう栽培における基本思想は、ぶどう樹に対して過酷な環境を与えることにある。例えば密植もその思想に基づく(密植本数:スタンダード7000本/ha、プルミエ・クリュ8500本/ha、グラン・クリュ12000~13000本/ha)。この思想の一義的な目的は、根を深く伸ばすことにある。また同じ理由によって、より痩せている畑に植えるべきである。
多くの畑で混植していることからも分かるように、品種の特徴を表現することは目的としていない。アルザスの土壌は太古の地殻変動に由来する極めて複雑で多様なものであり、この土地の個性、テロワールをワインに表現することを目的としている。ダイスの混植とは、文字通り、1本のリースリング種の樹の隣にピノ・グリの樹が、その隣にミュスカの樹が、という混植である。通常、品種によって成熟のスピードやしたがって収穫の時期も異なるが、ダイスの混植ではすべての品種が同じスピードで成熟し、完熟を迎え、同時期に収穫する。このことは、品種の違いよりも土地ごとの特性の方が重要であることのひとつの証左といえるのではないか。
1975年に父ジャン・ミッシェル・ダイスがドメーヌを継承した時点で、所有面積は約12haだった(ちなみにアルザスの全栽培家の平均所有面積は約10ha)。その後今日に至るまでに26haに拡大した(約半分が購入、残りがフェルマージュ)のだが、生産するワインの本数は、昔も今も約120 000本から変わっていない。「おやじは35年以上に渡って、ワインの複雑さ、味わいの深さ、余韻の長さを高める旅をしてきた」。
新たに畑を入手した際などに植える株は、セレクション・マサルによって増やしているが、苗木屋に渡す際もいわゆる混植状態のまま渡す。苗木屋から納品される際も、「各品種ごちゃまぜ状態なので、もうこの段階から、品種が必ずしも正確には分からないのです(笑)」。
アルザスの、1日当たり平均雇用労働者数は、約4名である(当然、収穫の4~7週間中に一気に増えるが、「1日あたり」にならした場合)。ダイスは19名で、うち12名が年間を通じての常勤(全員畑栽培に従事)である。 畑ごとの成熟スピードの差は、土壌の保水性で決まる。保水力が高い土壌は、水によって土壌の温度が低温に保たれるので、熟成は遅い。また、湿度も高いので、ボトリティスも発生しやすい。エンゲルガルテンやショフウェグなど、水捌けがよいほど辛口になり、ビュルグやシュネンブルグなど、谷底形状の畑は湿気もこもりやすく、ボトリティスがつく。
マルセル・ダイスの醸造について
ダイスの全生産量の平均収量は33hl/ha(3300リットル)である。全アルザス平均は78.80hl/haであり、例えばブルゴーニュのグラン・クリュは45hl/haである。 ヴァン・ダルザス、セパージュワインなどのスタンダード40~45hl/ha(ブドウの樹1本当たりの収量640ml)プルミエ・クリュ25~30hl/ha(ブドウの樹1本当たりの収量294ml~350ml) 。ただし赤のビュルランベルグは15hl/haです。
グラン・クリュ15~20hl/ha(ブドウの樹1本当たりの収量125ml~166ml) (ブドウの樹1本当たりの収量は密植本数に基づく)ちなみにグラン・クリュにおいてはぶどう樹1本あたり、グラス1~1.5杯分しか取れない。=シャトー・ディケムと同じ収量。ブルゴーニュで最も手間をかけているルロワのグラン・クリュワインでさえ20hl。2003年の猛暑のシャンベルタンで、それでも9hl/ha(値段10)なので、ダイスのコストパフォーマンスはかなり高いといえるのではないか。
一般的に1回のプレスにかかる時間は約4時間である。ダイスは12~16時間かける。プレスが終わった時点で、ぶどうの果皮がまったく破れていない状態(ぶどうの実が汗をかくような感じで、果汁がじんわりと染み出してくる)を、プレスの極意としている。果皮に付着している天然酵母の影響、もちろんSO2も使用するので、プレスに時間がかかっても酸化はしない。
その年のぶどうの状態に応じて、5機のプレス機を使い分けている(空気圧式2機、ヴァスラン(機械式)1機、木製垂直式大小2機)。SO2の平均使用量は約50ppm/lで、全アルザスワインの約3分の1である。「醸造中の酸化を防ぐことと、ワインの長期熟成のために、最低限のSO2は不可欠である」。
マロラクティック発酵は、年によりワインにより、成行きに任せている(従来の説明書に書いていた、ピノ系品種はマロ発酵するというのは今はあてはまらないそうです)。 白は原則として除梗しない。ぶどうの実は茎から離れる時(その品種の)香り成分を出すが、それを避けるため。赤は80%程度除梗する。除梗しないと、茎に由来する青臭さなどがワインについてしまうため。
マルセル・ダイスの栽培について
重視するのは、味わいの複雑さと、なによりも「余韻の長さ」である。余韻の長さは、畑仕事の質が正確に正比例し、醸造技術等によるごまかしは絶対にきかないし、長期熟成への絶対条件である。「グランヴァンとは、余韻が長いワインだと思います」。
アルザスの他の生産者がしばしば最重要視する点で、ダイスがまったく重要ではないと考えているのは、ワインの香りである。「温度やグラス、気分等によっても激変するし、香りほど非本質的なものはありません」。